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ミオパチーとは?
筋疾患(筋肉の病気)には、筋肉そのものに原因があって、筋力が低下する病気(筋原性疾患:ミオパチー)と筋肉を支配する神経が侵される病気(神経原性疾患)の2種類があります。筋原性疾患(ミオパチー)の代表的な病気に、筋ジストロフィー、多発筋炎などがあります。神経原性疾患では脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症が代表的な病気です。
遠位型ミオパチーとは?
筋原性疾患の多くは、駆幹(胸・腰のあたり)や上腕・大腿部など躯幹に近い筋(近位筋)が侵されます。しかし、筋疾患の中には手指や下腿など手足の先から筋力が低下していく病気があります。それが「遠位型ミオパチー」です。日本できちんとした遺伝子検査実施が普及されていないことや、この病気をよく知り、診断できる医師も限られる現状から、実態は把握できていません。様々な統計から、現時点では本邦には300−400人の患者さんがおられると推定されています。
遺伝子診断を行っている施設では、診断を確実にした例が増えています。
本邦には1,000人以上おられるのではないかと推定している研究者もいます。
多くの場合、徐々に進行し、日常生活の介助が必要となります。
「遠位型ミオパチー」には、「縁取り空胞型」「三好型」「眼咽頭遠位型」の三つの代表的な型がありますが、眼咽頭遠位型はきわめてまれな病気です。縁取り空胞型と三好型はほぼ同じ程度の頻度で、最近では三好型の方が多く見つかっています。縁取り空胞型はユダヤ人に多くみられ、人種差があります。また、日本人にはなく、外国だけに存在するような遠位型ミオパチーもいくつか存在します。
「縁取り空胞型遠位型ミオパチー」
原因:
常染色体劣性遺伝で、シアル酸という糖タンパクの代謝に関係する酵素の遺伝子(GNE遺伝子といいます)に変異があります。シアル酸は細胞膜にあって、細胞膜を強固にする働きがあるといわれています。なぜこの遺伝子に異常があると縁取り空胞が出来て、足から筋肉の力が弱くなるのか、今のところ解明されていません。
縁取り空胞:
筋線維の中に、空胞があって、その空胞は細かい顆粒状の物質で縁取られています(図参照)。筋細胞の中で、局所的な筋原線維の変性があり、それをリソソームというのが食べて消化します。変性した筋原線維、それを食べるリソソーム、消化・処理された物質の残骸、それらが空胞の周りの顆粒状物質として認められるのです。
また電子顕微鏡で筋肉を調べると、筋細胞核の中に細い線状の固まり(封入体)があります。ですから、外国では縁取り空胞型のことを封入体ミオパチー(inclusion
body myopathy: IBM)とよんでいます。
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縁取り空胞 細くなった筋細胞(横断面)に空胞があり、
赤紫色の物質で縁取られている。 |
症状:
大半の方では20〜30歳代に症状が出現します。前脛骨筋(すねのあたり)が最初に侵され、つま先が持ち上がらずに歩行時につまずく、スリッパが脱げやすいなどの症状が見られます。大腿の後ろの方は侵されますが、前の方(大腿四頭筋)は侵されにくいのが特徴といわれています。ですから、偉そうな歩き方をしているようにみえます。また病気の初めから、首の筋肉が弱く、寝た位置で頭が持ち上がらないことが多いです。
病気が進むと、下腿(膝下)全体の筋肉が侵され、歩行が困難となり、平均10〜15年くらいの経過で車椅子生活となります。上肢は手指から進行し、握力が低下します。心筋や呼吸筋は侵されにくいので、生命的予後はよいとされています。血液検査などでは特別な異常がなく、筋肉が壊れる指標とされているクレアチンキナーゼ(CKとかCPKと呼ばれています)は正常かやや高め(高くても正常の10倍以下)です。
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縁取り空胞型遠位型ミオパチー
病気の初期には下腿の前外側にある前頸骨筋が侵されるので、
足は細くなる(左)。筋肉のCT(右)をみると、前頸骨筋は強く侵されていて、
脂肪組織で置き換わっている(黒く見える)。 |
治療:
シアル酸の代謝異常で、シアル酸が欠乏しているのですから、シアル酸を投与すれば症状の改善ないし、進行を抑えることが期待できます。シアル酸は食べ物にも含まれていて、中華料理に使うツバメの巣に多いのだそうです。しかし、ツバメの巣のスープをうんと飲んでも、治療に必要な量には達しません。そこで現在は、化学薬品のシアル酸を使用することを考えています。
ただし、化学薬品ですからどれだけ投与すればよいか、副作用などの安全性はどうかなど、沢山の実験をしなければなりません。それにはかなりの費用が必要です。
遺伝子がわかっていますから、将来的には遺伝子治療、幹細胞治療の対象になります。根本治療が開発されるまで、シアル酸治療でなんとかしたいものです。
「三好型遠位型筋ジストロフィー」
常染色体劣性遺伝で、ジスフェルリンという蛋白をコードする遺伝子に変異があります。そのために筋細胞の表面にあるジスフェルリン蛋白が欠損しています。生検した筋肉をジスフェルリンの抗体で染めてみると筋細胞膜に蛋白がないことが分かり、診断できます。また、遺伝子検査でも診断が可能です。ただ、遺伝子が大きいので、検査には時間がかかります。
筋組織は筋線維の壊死、再生、脂肪組織、結合織の増生があり、筋ジストロフィーなので血清クレアチンキナーゼ(CK)値も非常な高値を呈します。
症状は、20〜30歳代で現れ、下腿(膝下)後部のヒラメ筋や腓腹筋(ふくらはぎ)から侵されるので、歩行の異常で気付かれます。
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遠位型筋ジストロフィー(三好型)
ふくらはぎの筋萎縮が著明(左)。下腿筋CT(右)では下腿の
後ろ側(ヒラメ筋や腓腹筋)は筋肉が脂肪組織で置き換わっている(黒く見える)。
前頸骨筋など足の前の方の筋肉(白い色をしている)はよく残っている。 |
つま先立ちが出来ないのが特徴で、特有の立ち上がり方をします。進行は比較的緩やかですが、速いものでは発症から10年くらいで車椅子生活となります。心筋や呼吸筋は侵されにくいので、生命的予後は良いとされています。
筋生検をすると、筋細胞が壊れ、それに続く再生所見がみられます。これは筋ジストロフィーに共通する所見です。
治療:
現在のところ、病気を完治させるような薬はありません。遺伝子の異常がわかっていますので、遺伝子治療の対象疾患です。また、幹細胞を使用しての再生治療にも期待がもてます。
「眼咽頭遠位型ミオパチー」
常染色体優性遺伝をとりますので、家族の中に同じような症状の方がいることが多いです。まれな病気で、まだ日本では数家系が確認されているだけです。
50歳以降に眼瞼下垂(まぶたが下がる)や嚥下困難(ものが飲み込みにくい)で発症します。まぶたが下がっているので、ものが見えにくくなります。咽頭筋が弱いので、言葉がはっきりしない、ものが飲み込みにくい、などの症状で気づかれることもあります。しばらくすると、下肢の筋力低下を伴うようになります。
まれには、縁取り空胞型遠位型ミオパチーと同じような歩行障害(前頸骨筋が好んで侵される)が先行することもあります。進行は遅く、心筋や呼吸筋などは侵されませんので天寿を全うします。眼瞼下垂が強い人には、手術も行われます。
筋生検では、縁取り空胞がみられるのが特徴的で、診断的な所見です。遺伝子の異常はまだ分かっていません。 |
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